長野県 野沢温泉 熊の手洗い

昔からの有名な温泉地は熱い湯が多い。温泉好きではあるが温泉マニアではない私は、野沢温泉の共同浴場も熱いと聞いて、いつも素通りしていた。ところが1か所だけぬる湯があると聞いて3年ほど前に来たのがきっかけで月1回程度の頻度で熊の手洗いに訪れるようになった。他にも野沢温泉でぬる湯があると聞いたが、本当にぬるいのは熊の手洗いだけだ。湯温41度程度で長湯もできる。
他の共同浴場同様、からんはなく、ドアを開けていきなり浴槽が2つ、ぬる湯とあつ湯だ。壁には脱衣用の棚。いたってシンプル。
ところが今年の7月ごろに来て驚いた。無い!熊の手洗いが無い。一瞬血の気が引いた。ああ、もう野沢温泉に入れるところが無くなった。と思ったが、よく見ると基礎が新しく打ってある。新築工事をしているとの事。よかった。
そして、3か月ぶりに新しい熊の手洗いに来た。元と全く同じ場所に、同じように、きれいになった熊の手洗いが夜の中で光っている。本当に輝いている。ドアを開けて中に入る。ほぼ依然と同じ熊の手洗いが眩しいくらいの明かりの中で美しい。新しいヒノキの肌が微笑んでいる。壁に4か所シャンプー置き場として使える窪みがあり、あつ湯とぬる湯の位置が逆になった。あつ湯とぬる湯の境界はコンクリートではなく、ヒノキになっている。
ぬる湯に入る。相変わらず優しいいい湯だ。
地元のおじさんがやってきて、あつ湯に入る。そして、このおじさんが神のごとき教えを私に垂れてくれた。
あつ湯に入る方法。
大抵の観光客はあつ湯に手や足をちょっと突っ込んでは熱い、熱いと叫んで、ひっこめ。すごすごとぬる湯に退散する。確かに私もそうだった。
熱いお湯は対流して上の方に、ぬるいお湯は下の方に。言われてみれば確かにそうだ。浴槽の上の熱いところに足を突っ込めば熱いに決まってる。だから、入る前に下にある湯と上にある湯をかき混ぜる。するとどうだろう、さっきまで熱くて入れないと思っていたお湯に入れてしまった。時々混ぜていないと上の方が熱くなってくるので、長居はできないが、熱くて入れないと思っていたあつ湯に入ることができて最高の気分。ただし、本当に熱い、他のあつ湯では通用しないかもしれない。
そうこうしているうちに、浴衣を着た年配の観光客の二人ずれ。一人があつ湯に足を突っ込。「熱い!」と叫んでぬる湯に潜り込む。そこで、先ほどのおじさんの解説が始まり。二人はあつ湯をかき回す。そして何事も無かったかのようにあつ湯に入り笑顔がこぼれる。
「ああ、入れたよ。」
本当に入れるんです。ちょっとした技さえ知っていれば。
そういえば草津の湯で、湯もみとかいって、木の板でお湯を混ぜている写真を見たことがあるが、あれなんだね。水で薄めて源泉を損なわず、技で湯温を下げる。先人の知恵なんだね。
あつ湯に入れた二人のうち70歳ぐらいのおじさんは、標高1300mぐらいの木曽の別荘地に長らく住んでいる「熊さん」という暴れん坊らしい。話が弾み、近くに寄ったら遊びにおいでと誘われ、握手をして別れた。
よく行く平湯から、奈川を抜けた先にある藪原という場所らしいので、いつか会いに行こう。熊さんそれまでお元気で。
利用時間:4月~11月 5:00~23:00、12月~3月 6:00~23:00
利用料金:各外湯にある賽銭箱にちょっぴりお気持ちを。
施設 5
泉質 5
露天 なし


2015年11月8日追記
日曜日の午後7時に熊の手洗い場に到着。ドアを開けると先客無し。貸し切り状態。日曜日のこの時間帯は観光客も少なくすいている。ぬるい湯にもあつい湯にも源泉のパイプが3本ずつ出ている。ぬるい湯は2本が熊の手洗い源泉。一本でほとんど出ていないのが麻釜から引いている熱い源泉。あつい湯はその反対で2本が麻釜から引いている熱い源泉で1本が熊の手洗い場の源泉。注ぎ口に2本の木の樋が置いてあり湯温を調整できる。長い方の樋はあつい湯の温度を下げるために主として熱いほうの源泉を浴槽の外に逃がしている。短い方の樋はあつい湯から出ているお湯を引いてきてぬるい湯に注ぎ温度を上げるのに使う。便利にできている。今回はあつい湯の方のお湯が逃がしてなかったので、あつい湯は本当に熱い前回話に聞いたように湯を混ぜてみたが太刀打ちできなかった。逆にぬるい湯は前回と違って、あつい湯が樋を伝って流れている。ぬる湯好きでも冬はこの方がよさそうだ。といろいろやっているうちに、ドアのあく音が。入ってきたのは偶然にも前回あつい湯に入る方法を教えてくれたおじさん。河野さんだった。河野さんいわく確かにちょっと熱いかな。でも、そういいながらあつい湯に体を入れていく。きっと産湯からこの温泉を使ってるんだろう熱さにめっぽう強い。そのあとで、若い観光客が一人入ってきて,あつい湯に挑戦したがあきらめて帰っていった。1時間30分お風呂に入っていてであったのはこの2人だけ。のんびりした時間を過ごすことができた。河野さんに別れを告げて外に出る。傘を差してきたのだが、雨は止んだようだ。ありがとう熊の洗い場。ありがとう河野さん。

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