ねぇ、ねぇ 2

ねぇ、ねぇ

ねぇ。ねぇ。誰か、いる。僕だよ、プーだよ。
今、中陰っていうところにいるんだ。
どういうわけだかブログが書けるんだ。
シリンジの水を飲ませてもらってからしばらくして。体がぎゅっと痙攣したかと思うと、目を開けてるのに何にも見えなくなったんだ。あたりは真っ暗。怖くて「ローズ」って叫ぼうと思っても口が動かないんだ。手も足も動かない。空っぽの暗闇の中で、体の重さも感じないし、痛さも無い。まるで、さなぎになった芋虫のような気分だ。でも、芋虫が本当はどんな気分だか知らないんだけどね。なんだか、そんな気がするんだ、芋虫の気分だってね。そうこうしてるうちに、お腹の辺りがむずがゆくなり、泡のような塊がゆっくりとみぞおち、胸、のどを通って上がってくる。なんてこった、最後は猫の額ほどの僕の小さな額に集まってきたよ。どうするんだい、こんな狭いところで。
すると、沢山の泡が、左回りにくるくると回り始めて、やがて、どんどん小さくなって、スッと、体の外に抜け出したんだ。
すると、僕の目の前に僕がいた。じっとして動かない。そばにローズがいて、じっとして動かない僕を、いや、もうそれは僕じゃないから、じっとして動かない元の僕を優しくなでながら泣いているんだ。
僕は甘えた声で鳴いて見せたけど、どうやら、ローズには聞こえないらしい。そこで、ローズの背中を右手で触ろうとしたんだけど、するっとローズの体を通り抜けてしまうんだ。
その時になってようやく、僕は、自分が死んでしまったんだって気づいたんだ。
気づくの遅すぎーなんて突っ込まないでね。なんたって僕は猫なんだから、それほど頭の回転は速くないんだ。
しばらくすると、強い力に吸い寄せられるようにして、真っ暗な闇の中を通り過ぎ、僕の19本の指で数えられるよりもうーんと長くたってから、何にもない荒れた土地に着いたんだ。ハリーポッターのポートキーみたいな感じでね。
夕方みたいに薄暗く、あたりには猫の子一匹いないんだ。草や木も無く、星も月も無く、雲も風も無いんだよ。乾燥した赤い土がずっと向こうの方まで、ずっと、ずっと続いているんだ。僕はとっても心細くなって「誰かいませんか。ローズ助けて!」って叫んだけど、返事は無い。余計に、心細くなって、涙がどんどんどんどん出てくるんだ。涙をぬぐっても、ぬぐっても、ボロボロ、ボロボロこぼれてくるんだ。
どれだけ歩いたかわからないけど、涙でかすんだ世界の、遠くのほうに高い山が見えてきた。
僕は、何かに吸い寄せられるように、どんどん、どんどん、山のほうに歩いたんだ。
でも、今は、もう、大丈夫。僕はとりあえず元気だよ。ローズ。
お土産に持たせてくれた焼きカマスありがとう。

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