ねぇ、ねぇ 4

ねぇ、ねぇ

ねぇ。ねぇ。誰か、いる。僕だよ、プーだよ。
今、中陰っていうところにいるんだ。
どういうわけだかブログが書けるんだ。
「ねぇ、母さん。あの子猫どうなるの」
「こまったわねえ」
「家で飼おうよ」
「でも、クッキーがいるわ」
「でも、ほら、見て。クッキーはまるでお母さんみたいにお世話してるわ」
「ほんと、お母さんみたいだね」
「このままだと、どこにも行き場所が無いみたいだし、家で飼う事にしましようかね」
「わーぃ」
「だったら、今まで、チビって呼んでたけど、ちゃんと名前を考えてあげなきゃね」
「チップがいい」
「どおして」
「だって、私、チョコチップクッキーが大好きだもん」
「今、家にいるのがクッキーでしょ。このチビがチップ。もしかして、もう1匹やってきたら、それがチョコよ」
「そうね、それがいいわ。じゃあチビの名前はチップね」
「わーぃ。チップとクッキーだ」
どうやら僕はチップという名前をもらったらしい。まぁ、チビよりいいかもね。僕はこの家の猫になったんだ。これからはずっとここで暮らしていくんだ。みんなと一緒に。僕は窓際の座布団の上でクッキーと寄り添って眠った。
次の朝、サキが僕を見て悲鳴を上げた。
「母さん、チップが大変。お尻からなんか出てる」
「うんちでしょ」
「違う、ひも見たいに長い」
「あら、ほんと、なんだろう」
「虫じゃないか。サナダムシとか長いのいるだろう」
「こわ~ぃ」
ローズは玄関の方に行って、前に僕が入っていたダンボールを持ってきた。
そして、その中に僕を入れた。
真っ暗なダンボールの中で、僕は怯えていた。あぁ、又、捨てられちゃう。やだぁ~。
僕の入ったダンボールは車に乗せられ、ずいぶん遠くまで運ばれた。きっとどこかの公園に捨てられちゃうんだ、まさか、保健所には連れて行かないよね。あぁ、どっちにしても僕の猫人生はお終いだ。
車が止まった。
僕は観念した。
幸せだったここ数日のことが走馬灯のように流れていく。
ダンボールのふたが開いた。
白いビニール手袋が伸びてきて、僕を捕まえた。
あぁ、保健所か、殺される。
僕は、大きな台の上に乗せられた。白っぽい部屋。白衣を着た男の人が僕のお尻の辺りをしばらく触っていたかと思ったら、スーッと細長いものを引っ張り出した。それから、僕の肩の辺りに、尖った物を刺した。チクッと痛かったけど、死にはしなかった。
「注射を打っときました。後、薬を2,3日飲ませてください。もう大丈夫ですから。」
「先生、どうもありがとうございます」
それは、病院というものだった。犬や猫を診る専門の病院があるなんて、僕はなんて幸せなんだろう。ローズに言わせると健康保険が利かないのが難点らしいんだ。人間よりお金がかかるらしい。申し訳ないにゃん。
虫が取れてからというもの、食欲も増して、僕はどんどん大きくなっていったんだ。
そして、あっという間に1年が過ぎ。気がついたら僕はクッキーよりも大きくなってたんだ。すごいでしょう。すっかり立派なオス猫に成長したんだ。
でも、それが、クッキーとの楽しい日々を奪っていくなんて思ってもみなかった。

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