ねぇ。ねぇ。誰か、いる。僕だよ、プーだよ。
今、中陰っていうところにいるんだ。
どういうわけだかブログが書けるんだ。
近いように思ったけど、山はとっても遠いんだ。いくら歩いても近づいてこない。僕はすっかり疲れてしまい、地べたにへたり込んだ。小さな岩があったので何とかそこまでたどり着き、岩陰で横になったんだ。いつの間にか眠ってた。
地震のような大きなゆれの後、真っ暗な世界の天井が突然ぱっくりと割れた。一瞬、世界が真っ白になったよ。それから、3人の女の子の顔がぼんやりと見えてきた。その中の一人は見覚えがあるぞ。そうだローズの娘のサキちゃんだ。あとは、確か近所のヒカルちゃんとヨッちゃん。代わりばんこに、ダンボールの中に顔を突っ込み、中にいる僕を覗き込んでる。
「ねえ、子猫だよ」
「わぁ、ちっちゃい」
「真っ黒だね」
「元気なさそう」
「鼻水たらしてる」
「お腹すいてそうだね」
「どうする」
「かわいそうだから家に持ってく」
わいわいと話しながら、しばらくダンボールの中で揺られていた僕は、真新しい家の玄関先で、小さなお皿に入れた牛乳を舐めていた。お腹がぺこぺこだったので、何度も何度もお代わりしてもらった。
お腹が一杯になったらぐっすり眠ってしまった。そんな日が3日ぐらい続いた後で、僕は別の家に連れてこられた。そこで、初めてダンボールから部屋の中に出されたんだ。
その時初めてローズに会った。
ローズは僕の鼻水をぬぐい、目やにを拭いた後で、体を、お湯で絞ったタオルで綺麗に拭いてくれた。そんな事は初めてだったので、僕はとってもすっきりして、身も心も元気な気分になったんだ。ローズの旦那さんのモルク、長男のアユム、長女のサキが代わりばんこに僕を覗き込み、体をなでてくれたんだ。
それまでずっとダンボールの中で寒い思いをしていた僕は、生まれて初めて、温もりってものを感じたよ。僕以外の生き物の温もり。そう、生きてるってことは温かいことなんだな。温かいってことが生きてるってことなんだなぁってね。
生まれて3週間ぐらいの僕がこんな事を考えられるはずは無いけど、感じることはできたんだ。きっと。だから、その温かさは今も忘れない。そう、世界は捨てたもんじゃない。
まぁ、僕は捨てられちゃったけどね。
「捨てられる猫があれば、拾われる猫もあるって事」
そしたら、突然、ニャって声が聞こえた。
あれって振り向くと、そこにメス猫がいる。しきりに僕のお尻の匂いを嗅ぎ、舐めまわしてくる。名前はクッキー。1年前にアユムが拾ってきた茶トラの猫。その晩、僕はクッキーに抱かれてとっても幸せだった。
でも、その晩ローズと子ども達の話が聞こえてきた。
「家にはもう、クッキーがいるから、2匹飼うのは無理ね。とりあえず預ったけど、誰か飼ってくれる人を探しましょうね」
「エッ~。家で飼おうよ」
「そうゆうわけにはいかないわ」
しばらくたって僕はまた知らないお家に連れて行かれた。そこの奥さんはつい最近飼い猫をなくしたばかりで、寂しくて僕を飼ってみようと思ってくれたらしいんだ。
でも、2,3日で又、ローズの家に帰ってきた。
その晩子ども達の話し声が聞こえた。
「なんで、戻ってきたのかな。鼻水たらしてるし、目やにでてるし、真っ黒でかっこ悪いからかな」
「さっき、母さんに聞いたんだけどね。死んだ猫の事が忘れられなくて、新しい猫を飼うのはやっぱり無理だって」
「それじゃ、家で飼う事になるのかな」
「でも、クッキーがいるから」
「母さんに聞いてみよ」
2人は子供部屋から台所に降りてきて、ローズに話しかけた。