ねぇ。ねぇ。誰か、いる。僕だよ、プーだよ。
今、中陰っていうところにいるんだ。
どういうわけだかブログが書けるんだ。
山の中で泊まったんだけど、疲れてたせいか、起きると、太陽がほとんど真上まで来てた。夕方近くに麓の大きな木のところまでやってきたら、ものすごく歳をとったおばあさんが切り株に腰を掛けていた。200歳は越えてると思うんだ。だって、顔中が松の木の皮みたいに深いしわに覆われてるんだよ。モルクの本で見たインディアンのおばあさんより、もっとすごいしわなんだ。真っ白い髪の毛は足に届きそうな位長いんだよ。だけど、ローズと違ってボサボサで針金みたいに折れ曲がったりしてるんだ。垂れ下がった白髪の奥から僕のほうをギロッと睨んで言うんだ。
「よくきたね。名前は何ていうんだい」
「チップです。はじめまして」
「ここでは、着ている服をもらうことになってるんだが、お前は服を持ってないみたいだね」
「はい、服は一度も着たことはありません。紙おむつなら最近何度かはきました」
「しょうがないね、じゃあ、頭の上のちょっと飛び出てる毛をもらうよ」っと言って、おばあさんはつめの伸びた手を着物の袖からだしたかとおもったらあっという間に僕の頭のちょっと白くて飛び出た、ローズのお気に入りの毛を3本抜いて、ふっと吹いたんだ。
すると、毛は風に乗って、どんどん、どんどん昇っていった。木のてっぺんと同じ高さになったところで、そこに待ち構えていたおじいさんが素早く僕の毛を掴んで、てっぺんの枝先に置いた。すると、枝がぐっと下がったんだ。僕の毛なんて重さがないも同然なのに、ググッと太い枝が垂れ下がったんだ。
「ふ~ん。お前はずいぶん悪いことをしてきたんだね」
「え~っ。僕、悪いことなんてしてません。ずっといい子でした。ローズに聞いてください。僕は絶対いいこです」
「あの木はな、服をぶら下げると、それを着ていた人間の罪の重さにしたがって、垂れ下がるようになってるんだ。愚かなものはそれと気づかず罪を犯すもんじゃ。よくよく、自分の猫人生を振り返ってみるこったな」
「まぁ、とにかく、この道をまっすぐ進んだら、大きな建物があるから。そこで、しんこうおう様にお会いするんだ。いいね。大分遅くなったから早く行きな」
「はい。分かりました。ありがとう、おばあさん」
しばらく行くと、建物があったよ。とっても大きな扉があるんだけど、取っ手まで手が届かなくて、もたもたしてたら。突然扉があいたんで、僕は、もんどりうって、部屋の中に転がり込んでしまった。あわてて、起き上がると、太い腕がぐっと伸びてきて、僕を持ち上げて大きな椅子の上に座らせたんだ。振り向くとそこには青い顔をした鬼が立ってた。青鬼さんだ。
正面に向き直ると、大きな机の上には「秦広王」ていう札が立ててあって。机の向こうには大きな帽子をかぶって、右手に剣を持った、乾君みたいな、目の釣りあがった、怖いおじさんが僕を見下ろしてるんだ。
「ずいぶん遅かったじゃないか、チップくん。今日の審議はすべて終わったから、明日で直しておいで。一応7日の受付って事で処理しといてくれるかい青鬼君」
「はい分かりました。こいつはいかがいたしましょう」
「今夜はお前の部屋で面倒見てくれるかい」
「はい」
「さぁ、チップ、こっちへおいで。今夜はオレ様の部屋で泊まるんだ」
僕はぎりぎり7日目にしんこうおう様にお会いできたんだけど。なんだか怖そうなおじさんだ。それに引き換え青鬼さんはなんとなく優しそうだ。