僕の寿命

クロムが昨日言ってたんだけど、猫の最高寿命は36歳なんだって。僕は２０００年の１０月にダンボールに入れられて捨てられてたんだ。それをサキが家に連れてきてくれた。誕生日は２０００年の９月３０日ってことになっているから、８歳ってわけだ。
と言う事はあと３０年近く生きられるって事かなって思ってたら、どうやらそうじゃないらしいんだ。
最高寿命って言うのは、今まで生きてた猫の中で一番長く生きた猫の年齢で、全ての猫が３６歳まで生きられるわけじゃないんだって。
じゃあ、僕は何歳ぐらいまで生きられるのかなってクロムに聞いてみたんだけどよく分からないって言うんだよ。
でも、平均寿命って言うのがあって、それから考えると、後１０年は生きられそうだって。
じゃ、クロムはあと何年くらい生きられるのって聞いたら、人間の男の平均寿命は７７歳ぐらいだから、あと２４年かなって。
クロムは僕から見ても白髪頭でおなかも出てるし、おじいさんの一歩手前って感じなのにあと２４年も生きられるって、どうも合点がいかない。僕は２ｍ近いたんすの上にも登れるし、クロムより絶対元気だと思うのにクロムの半分も生きられないなんて絶対許せないよ。
ローズに聞いてみたらやっぱりクロムより僕のほうが絶対若く見えるっていってくれるんだよ。それなのに･･･。
どうして人間と猫では寿命が違うのか、猫のほうが絶対地球環境に優しいし、自然破壊しまくりの人間のほうが寿命が長いなんて宇宙の法則に反しているような気がする、絶対におかしい、何かの間違いにしか思えないよ。
いったい寿命ってどうなってるんだろうと思ってクロムに聞いてみたんだ。
クロムが言うには、小さい動物よりも大きな動物のほうが長生きするらしいんだ。だから、ねずみより猫、猫よりも馬、馬よりも象のほうが長生きで、象は７０歳近くまで生きるんだって。
クロムが言うには、小さな動物は、呼吸や心拍が速くて、象のような大きな動物は呼吸や心拍はゆっくりらしんだ。象なんていうのは１分間に４回しか呼吸をしないんだって。ある説によると全ての動物の一生の心拍数は同じぐらいで、心拍数の多い小形動物はその分寿命が短いんだって言うんだ。
そう言われてみれば、僕の心臓はいつもどきどきしてるし、決してゆっくりってわけじゃないんだ。そんなことを聞いちゃうと、益々心臓がドキドキしちゃう。クロムの言ってた、ある説によるとドキドキが速ければ速いほど寿命が短くなるって事だから、これは大変な事なんだよね。
それを聞いてから僕は、心臓がドキドキしないように、なるべく、じっとしている事にしたんだ。ご飯のときも、走っていかないで、ゆっくり歩く。クッキーと良くやってた追いかけっこも、心臓がドキドキしちゃうからやめたんだ。
１日中じっとしている僕の事が気になったのか、クロムが僕に聞いてきたんだ。
「どうして遊ばないの」
「だって、遊ぶと、心臓がドキドキしちゃうでしょ」
「そうだね」
「そうしたら、僕の命が早くなくなっちゃうでしょ。僕もクロムみたいに長生きしたいんだ」
そしたら、突然クロムが笑い出すんだ。長生したいって言う僕の事を笑うなんてひどいよ、あんまりだよ。
「何で、笑うんだよ、クロム。ひどいじゃないか」
「ごめん、チップ。でも、一日中心臓がドキドキしないように、じっとしててチップは、楽しいのかな。幸せかい」
「うーん。楽しいかって言われると、あんまり楽しくないな、１日中じっとしているなんて」
「そうだろ。あんまり、心拍数の合計で寿命が決まるなんて真に受けないほうが良いよ、チップ。もしそれが本当だとしたら、スポーツ選手の寿命はみんな短いって言う事になるけど、スポーツ選手の寿命が短いって言うデータはないんだよチップ。第一、１日中心臓のドキドキを気にしてじっとしているだけじゃつまんないだろ。」
「うーん、確かにつまんない」
「そうだよチップ、長く生きるって事ももちろん大切な事だと思うけど、そのために毎日がつまんないんだったら、何のために生きてるのって事にならない」
「うーん、確かにそうだ」
「だったらそんな事気にしないで、楽しく暮らそうよ」
確かに、クロムの言うとおりだ。長生きしたって、毎日が楽しくないんじゃ意味が無いよね。それにドキドキの数で本当に寿命が決まるかどうかもよく分からないってクロムも言ってるし。
とにかく、毎日が楽しいって事がなんてったって大切だ。階段を駆け上がったり、虫を追いかけたり、クッキーと追いかけっこしたりできないなんて、生きてるって感じがしないもの。
「猫が健康を気にするようになったらそれこそ、病気だよ」ってクロムが言うんだ。
確かにそうかもしれない。それじゃ、人間と変わらないものね。猫が、頭でっかちになったらおしまいだ。猫は猫らしく。僕は僕らしく今までどうりに生きる事に決めたんだ。
心の命じるままに、体の命じるままに、ありのままにね。