ねぇ、ねぇ 6

ねぇ、ねぇ

ねぇ。ねぇ。誰か、いる。僕だよ、プーだよ。
今、中陰っていうところにいるんだ。
どういうわけだかブログが書けるんだ。
「お前は名前何ていうんだい」
「はい、あの、チップっていいます」
「ポテトチップのチップかい」
「いいえ、違います。チョコチップクッキーのチップです」
「ふ~ん。まぁ、どっちにしても食いものの名前だな。食ったら美味いかい、お前は」
「い、いいえ。絶対美味くありません。ガリガリで骨と皮しかないし、体中に癌が住み着いてるんで、絶対に不味いです」
「その、背中に担いでるのは何だい」
「あぁ、これは焼きカマスです。ローズが持たせてくれたんです」
「お前を食うよりは、そっちの方が美味そうだな」
「はい。焼きカマスは最高です。僕の大好物。絶対にうまいです」
「じゃぁ、それをオレによこせ。そうすりゃ、勘弁してやる」
「えぇ~。でも、これはローズが僕に・・・」
すると、鬼が、金棒をドシ~ンと地面に叩きつけたんだ。
僕は、一瞬、2cmぐらい地面から浮きあがったような気がした。
「ねぇ、赤鬼さん。赤鬼さんてちょっと太りすぎじゃないですか」
「う~ん。痛いところをつくな。最近ちょっと、年のせいか腹の周りが出てきてなぁ。閻魔大王にもダイエットしろって言われてるんだ」
「だったら、赤鬼さん。いい物があるんです」
僕はローズに持たせてもらったもうひとつの袋から。老猫用のペレット状ダイエット食を取り出して、赤鬼さんに見せた。
「これは、お腹がふくれるけど、カロリーが少ないんだ。今流行のメタボ対策用の食事なんだよ。なかなか手に入らない高級品なんだ」
「そうか、じゃぁ、そっちのをオレによこせ」
「じゃ、半分だけ、赤鬼さんにあげるね」
赤鬼さんはポリポリと、おいしそうに食べながら僕に話しかけた。
「あそこに山が見えるだろ。お前は明日までにあの山を越えて、しんこうおう様にお会いしなきゃならない」
「しんこうおう様って誰」
「お前の行き先を決めてくださる、偉いお方だ。お前が今までにしてきた良いことや悪いことを洗いざらい書き出し、調べ上げる偉いお方だ。あの山の向こうにいらっしゃる。亡くなって7日目までに行かなきゃならない」
「じゃ、明日までにあの山を越えなきゃならないんですね、赤鬼さん」
「そうだ。だけどあの山はひどいところだ、岩は刃物のように鋭くお前の足を切り裂くし、氷のような風が吹き降ろしお前を凍えさせる。越えていくのは容易じゃない山だ。だが、オレ様にダイエット食をご馳走してくれたお礼に教えてやる。いいか、山に続いている歩きやすそうに見える道を通るんじゃない。たちまち険しい道に変わっていく。あの、左手に見える細い獣道。あそこを通っていくんだ。そうすれば楽に山を越えられる。山を降りたら、大きな木のそばに年寄りの女がいるから、そこで又道を聞いて、しんこうおう様のところに行くんだ。いいな。」
「うん、わかった。いろいろ教えてくれてありがとう、赤鬼さん」
僕は赤鬼さんに教わった獣道を登っていった。木と落ち葉に囲まれた獣道は足も痛くなかったし、氷のような風も遮ってくれて、赤鬼さんの言ったとおり山越えはとっても楽だった。ローズに持たせてもらったダイエット食のおかげだ。ありがとう。ローズ。

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