Time is money.

田舎に住んでいると、太陽や星や自然の移り変わりが人の生きるリズムを生み出している。時はゆっくりと流れ、いつも私の傍らで、従順な犬のように私を待っていてくれる。ところが、いつの頃からだろうか、時は金(貨幣)に取って代わられたかのようだ。
Time is money.
それが、世界で最初に産業革命が起こった国の言葉で書き記されている事が面白い。ヒンズー語でもスワヒリ語でも中国語でもなく、英語である事に納得させられるのだ。
資本主義がその産声を上げた時から、ヨーロッパの人々は自然が刻むおおらかな時を離れ、利潤が刻む、時のリズムに魅了されていった。自然のリズムに生きる地域と利潤のリズムに生きる地域の差が、経済における南北の2極化を生み出したのだろう。科学自体に罪はないが、全ての欲望に開かれている。資本主義は科学という倍力装置を利用してますます貨幣の奴隷に成り下がっていく。
私たちはある意味幸運な事に、北の地域に住んでいた。Time is money.の側に暮らして、豊かな生活を享受して来た。
Time is money.とは、別の言葉で言えば「効率こそ全て」という事だ。いかにして効率よく金をもうけるか。企業の行動基準はそこで働く人の気持ちはどうあれ、最終的にそこに集約されるものだろう。それを覆い隠すためか、最近の経営者は「理念」を高く掲げる。
最近では、グローバルスタンダードという言葉がもてはやされている。むしろ、アメリカンスタンダードと言ってもいいかもしれない。地域としての北で豊かさを享受していたはずの、一人ひとりの人間に、今、それが突きつけられはじめている。南北という地域間の2極化は次第に薄れ、利潤という最終目標を基準に、グローバルに人が峻別される時代がやがてやってくるだろう。
人間の2極化。
ブックオフへ行けばその峻別に生き残るためのノウハウ書が山ほど並んでいる。同時に、その峻別に対応しきれなくなった心のための癒しの本も所狭しと並んでいる。
私たちは、まるで、企業という恐竜が闊歩しているジュラ紀の哺乳類になってしまったようだ。
私はアマゾンで『「プロ経営者」の条件』という本をずいぶんと売ったが、「理念」を尊ぶ、著者の折口雅博会長傘下のコムスン騒動を振り返ると、企業という恐竜のロジックが透けて見えてくる。金(貨幣)は無限に増殖するがん細胞のように私達の心を蝕んでいる。
腐らない貨幣というものの誕生が、全ての根源にある。腐らないから蓄えられる。そして、貨幣には利子を生む商品としての側面がある。巨大な金融資本が誕生し、いまや、くもの巣のように資本主義社会の裏側で暗躍?している。徐々に、実業としての企業はないがしろにされ、果てしないマネーゲームの食い物にされようとしている。貨幣はすでに神を駆逐し。万物の頂点で己の栄華を極めている。

現在においてお金の無い世界は存在しえるのだろうか。そんなユートピアを提示しているのが。この本だ。ユートピアはあくまで思念の世界に存在するに過ぎないものだが、新しい世界に繋がる里程標としての役割は担えるだろう。

むしろ、ミヒャエル・エンデが述べている、金の二つの側面に関する考察の方がより現実的かもしれない。
彼の貨幣に対する考察は、こんな時代にこそ、われわれの未来を考える教科書になるのではないだろうか。
詳しくは、アマゾンの書評を参考にされたい。

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