僕の名前はプー。
本当はチップという名前があるんだけど、何時からかプーと呼ばれてる。
この家にやってきてから6年になるかな、それとも7年になるかな。あんまり良くは覚えていないんだ。生まれて2週間ぐらいの時、ダンボールに入れられて道端に捨てられていたらしいんだ。僕の兄弟達は、一目散にそのダンボールから外に飛び出し、どこかに消えてしまったみたいだけど、元来ボーっとしている性格なのか、僕はダンボールの中でじっとしていたらしい。
隣の家で1日過ごしたんだ。子どもたちが僕を飼いたいと、親にせがんだらしいんだけど、僕の風体が気に入ってもらえなかったのか、理由はよく分からないんだけど、親たちは首を縦に振らなかったらしい。そこで、隣の子どもたちが、我が家にやって来て、僕を飼ってくださいって頼んだらしいんだ。
だけど、我が家では、1年前に拾ってこられたクッキーというお姉さんがいたんで、僕の事を飼うわけにはいかなかったらしいんだ。けど、このままでは、僕が保健所に連れて行かれそうだったので、飼い主が見つかるまで、とりあえず預かるって事になったらしいんだ。我が家の女主人のやさしさのお陰で、僕は今もこうして生きていられるってわけだ。
丸3日ほど僕はダンボールの中に入れられていたんだけど、我が家に来て初めて、ダンボールから外の世界に出てくる事ができた。その当時の僕は真っ黒で、目やにをたらし、鼻水もたらして、それはそれはみすぼらしい、哀れな姿だったらしい。3日程たって、飼い主が見つかったという事で、僕は又ダンボールに入れられて、下の村のとある家に連れていかれたんだけど、3,4日ほどで又我が家に戻ってきた。
どこが気に入られなかったのか、赤ちゃんだった僕には良く分からないんだけど、話によれば、赤ちゃんというのはたいていはとっても可愛く愛くるしい生き物らしいんだけど、その当時の僕はどうも、そうじゃなかったらしい。はっきりいって不細工だったんだって。
あえて今、弁解すれば、確かに多少は不細工なところもあったかもしれないけど、捨てられてからの辛い日々のせいで痩せていて、その上に目やに、鼻水をたらしていたという不運が重なったんだと思うんだ。僕だって、なんと言ってもネコの端くれなんだから、そういう事さえなければ、それなりにネコの可愛らしさの片鱗は見せていたに違いないんだ。ただ、ちょっと運が悪かったっていう事なんだ。
それ以来、引き取り手もなく、僕はいつの間にか、我が家の住人になってしまったというわけなんだ。
最初は名前もなく「チビ」と呼ばれていたんだけど、いつの間にか、ご主人様は僕の事を「チップ」と呼び始めた。チョコチップのチョコのように小さくて可愛いからだろうと、僕はこの名前が気に入っていたんだけど、いつの間にか「プー」と呼ばれるようになった。
ちょっと、情けない名前のような気もするんだけど、ご主人様には逆らえないし、ご主人様曰く、ぼっとしていて、人懐っこく、何事にも動じない性格には、「プー」という名前がぴったりだっていうもんだから、最近ではこの「プー」という名前もそれなりに気に入ってるんだ。
確かに僕は「プー」だ。
とにかく、我が家には本箱がずらりと並んでいる、いくつあるか良くはわからないんだけど、僕の手と足にある肉球の全てを使っても数え切れないくらいだから、たくさんあるということだ。
僕のご主人様はどうやら「古本屋」と呼ばれる仕事をしているらしい。
コメント