今日、お昼寝してると良い匂いがして来たんだ。なんだ、何だと思っていたらサキが小麦粉と卵の黄身をこねくり回して、お団子のようなものを作ってた。それから、棒のようなものでお団子を伸ばして、お月様のようにまんまるにしてたんだ。最後にまんまるが折り紙のように四角くなった。
サキは、四角い折り紙を4つに切ると、そこに僕の大好きなジャムを薄く塗って、海苔巻きのようにくるくる巻いていたんだ。やった、僕にくれるのかなって思ってたのに、サキはそれを冷蔵庫に仕舞っちゃった。がっくり。
それが済んだらサキはいつものように、テレビを見ながら受験生らしく勉強を始めた。クロムは昔、中学校の先生をしていた事があるんだ。それで、聞いてみたんだ。テレビを見ながら勉強すると頭が良くなるのってね。そしたら、ラジオや音楽を聴いてやるならいいけど、テレビを見ながらじゃ頭に入らないよって言うんだ。僕も、絶対そう思う。
ご飯を食べる時は一生懸命食べる。お昼ねする時は一生懸命お昼寝する。ネズミを追いかける時は、一生懸命追いかける。これが僕達猫の正しい生き方だって、クーが子どもの頃に教えてくれたんだ。ほら、人間の言葉にもあるじゃない「2匹のウサギを追っかけたら両方逃がしてしまうって」ことわざ。「2等を追う者は1等も得ず」だっけ。なんかそういったやつあったよね。僕は、絶対そう思う。
クロムだってそう思ってるのに、どうしてサキの事注意しないのって聞いたんだ。そしたら、勿論、効率的じゃない事は話してあるよって。でも、結局、自分で本当にそうだって思わなきゃ、無理に押し付けても意味がないんだって。確かにテレビを見ながら勉強したって、命をとられるわけでもないし、余計にお腹が空くわけでもないしね。
僕の事じゃないんだけど、クーが小さい頃、何にも知らずに高い杉の木のてっぺんまで登った事があるんだ。それで、降りようと思ったら怖くて降りれない。クーの泣き声を聞いて、ローズもサキも外に飛び出てきたんだけど、あんまり高い木なのでどうすることもできなかったんだ。夕方、クロムが帰ってきて、木に登ってクーを助けてくれるまで、クーはずっと木の上で泣いてたんだって。それ以来、クーは絶対木に登らなくなったんだ。こういうのを「身をもって知る」て言うんだよね。僕も本で爪を研いじゃ駄目だって事を「腹をもって知ったし」ね。
僕が、うとうとしていたら、突然、サキが包丁を持って僕に向かってくるんだ。「夢なら覚めてー」と叫んだけど、夢じゃないんだ。本当にサキが包丁を持ってる。僕何にも悪い事はしていないのに、テレビを見ながら勉強してるって言ったから、頭にきたんだ。大変だ!でも、どうして?まだ、「僕は死にたくないよ」って叫ぼうとしたら、僕が寝ていたテーブルに包丁を置いて、冷蔵庫に仕舞っておいた、おいしそうな海苔巻きを薄く切り始めたんだ。良かった、僕はまだ生きてる。
いよいよ、おいしそうな海苔巻きを僕にくれるんだ。でもなんで、この海苔巻きは黒じゃなくて真っ白なんだ。でも、そう思ったのが良くなかったみたい。サキに聞こえたのかもしれない。サキはおいしそうな海苔巻きを持って、台所に戻っていっちゃった。残念、又おあずけだ。
僕は、どうしても気になって、台所について行ったんだ。そしたら、オーブンのドアをオープンして(一人笑い)海苔巻きを全部入れたんだ。どうやら、海苔巻きを焼くらしい。
でも、僕は絶対に反対だ。海苔巻きを焼くなんて聞いたことがないよ。ご飯がパリパリになって、絶対においしくない。焼きおにぎりならおいしいけど、焼き海苔巻きには絶対反対だ!絶対!
ところが、しばらくすると、いいにおいがして来たんだ、あまーいにおいにくすぐられて僕のお腹がぐるぐる鳴るんだ。なんか、今までに嗅いだことのないおいしい匂いだ。しばらくして、チンって音がした。この音が「できたって」合図なんだ。やった、サキが白い海苔巻きをお皿に乗っけた。いよいよだって思ったら、僕の手の届かない所にお皿を置いて、又、勉強を始めたんだ。あ~あ、又駄目だ。僕は、ぐるぐる言うお腹を丸めて、またうとうとすることにした。夢の中で、海苔巻きをお腹一杯食べてたら、突然、クロムが買取から帰ってきたんだ。外はもうすっかり暗くなってて、テーブルの所に行ったら、お皿の上に白い海苔巻きがのってた。
やった、クロムが帰ってきて、いよいよみんなで食べるんだな。僕は、いつもの席に座って手を出したいのを、一生懸命我慢しておとなしく待ってたんだ。すると、クロムは手も洗わないで、いきなり海苔巻を口に放り込んだんだ。「凄いや、今日のクッキーは、いつもと違って、ブルーベリーが入ってる。サキが作ったの。おいしいよこのクッキー」
ひどいよ、僕はお昼からずっと我慢してたんだよ、それなのにクロムったら帰ってきていきなりパクリだよ。待っていたものの身にもなってほしいよな本当に。でも、クロムは完全にバリカンの事を忘れてる。それは良かった。
僕は、生まれて初めてクッキーを食べた。白い海苔巻きだと思ってたけど、海苔巻きじゃなくてクッキーっていうお菓子なんだって、僕はてっきり新作海苔巻きかなって思ってた。クッキーの間に「の」っていう字の形にブルーベリーが入ってて、それがとってもおいしいんだ。さすがにサキは受験生だけの事はあるよね。お菓子を作る時にもちゃんと字の勉強をしてるんだ。
テレビを見るときにも勉強してるけど、お菓子を作る時にも勉強するなんて、やっぱりサキって凄い。来年の高校受験も合格間違いなし。僕の太鼓腹ではんこを押してあげる。これがいわゆる「太鼓判」ってやつだな。(一人笑い)
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