僕のおののき

クロムは鬼だ！
昨日、謎の古本屋さんがエアコン買うように言ってくれたので喜んでいたのに、クロムの返事を見てビビリまくりです。
「そんなにクーラー、クーラーって言うんだったら。その暑そうな毛をバリカンで刈ってやる」なんて。その言葉を見ただけで、僕は体が凍りつきそうになっちゃいました。
これは、絶対に動物虐待だ。ひどすぎるよ、バリカンでかるなんて。動物保護団体に訴えたら、クロムなんて縛り首にしてくれるかもしれない。冗談に決まってるとは思うんだけど、ひそかに僕はおののいてます。
だって、洗面所に電動バリカンが置いてあるんだもん。
この間だって、僕が悪かったんだけど、夕食抜きだなんてひどい事をしたし。大体クロムはもともとはネコが大嫌いだったんだ。ローズに聞いたんだけど、子どもの頃、鳩を飼ってて、その鳩が近所の猫に襲われてとっても悲しい思いをしたんだって。それ以来、猫を見るたびに石を投げつけていたらしいんだ。それって、なんだっけ、馬と虎が合体したような凄い言葉があるでしょ。えーと、そう「トラウマ」。きっとトラウマってやつになってるって言ってたんだ。虎に吼えられて、馬に蹴られるってのはよっぽどの事だから、きっとクロムの心の深くにマグマのように傷が残ってるとおもうんだ。
もし、そのマグマが突然爆発したらと思うと、僕は夜もおちおち眠れやしない。そのくせ昼間に寝てたんじゃ意味ないかも知れないけど。とにかく、ここしばらくは、クロムが洗面所に行った後はよく観察しなくっちゃいけないんだ。もし、手にバリカンを持っていたらすぐに２階に駆け上がる。そして、吹き抜けの梁の所まで逃げれば、クロムも僕に手出しはできない。もし、庭においてあるはしごを持ってきたら、はりの１．５ｍ上にある天窓から屋根に脱出する。それでも、クロムが追いかけてきたら、屋根から庭に飛び降りる。ローズが話してくれたキャット空中３回転を初めてやってみようと思う。もし成功すれば、僕にとっては勲章だ。
僕はその勲章とローズやサキとの思い出を胸に、さすらいの野良猫として生きていくんだ。僕だって、その気になればネズミだって捕まえられるし、今の時期ならセミだって捕まえられる。そしたら、「猫外出禁止令」も関係ないし、僕は晴れて自由の身だ。
でも、もう一生ローズのベッドで一緒に眠れないし、サキの腕に前足をかけてお昼ねすることもできなくなる。それに、今は暑いくらいだけどやがて、白くて冷たい雪が降ってきて、そうなると「猫はコタツで丸くなる」って歌もあるくらいだから、僕には寒くて耐えられそうもない。
突然、話は変わるんだけど、今思い出したんだ。実は、クロムはクーラーも買ってくれないんだけど、コタツも嫌いなんだ、だから、冬でも僕の家にはコタツがないんだ。本当にクロムは僕達の気持ちがてんで分かって無いんだ。「猫はコタツで丸くなる」って日本の常識だよね。それ位の事は、いい年したおやじなんだからクロムだって分かって当たり前なんだけど、ぜんぜん駄目だ。あーなんか、本当にクロムってどうしようも無い。だんだん、むかついてきちゃったよ。
そうだ、冬は寒いんだった。
自由になれる、なんて、思ってたけど、やっぱり自由って結構大変だ。自由になって寂しくなってもつまんないし、何とかバリカンから逃げ延びる道は無いんだろうか。とにかく、クロムの行動を監視する事。それからローズに相談する事。
明日、起きたらクロムが起きてこないうちに、ローズに頼んでみよう。