僕とアユと自由とご飯

poo.gif前に僕の家族って記事を書いたと思うんだけど、実は、今は家には居ないんだけど、僕達にはもう一人家族がいるんだ。
アユっていう17歳の男の子なんだ。
僕のお姉さんのクーは、小さな時山に捨てられたんだ。そこで、何日か、山の中で暮らした事があるんだけど、兄弟とも生き別れになって一人で、側溝にじっとしていた時、アユが小学校の帰り道でクーを見つけたんだ。そっと近寄ってきてクーの事をじっと見てる。クーが弱ってるって事が分かったんだろうね。側溝で震えてるクーを抱きかかえて、頭を撫でてくれたんだって。それからポケットの中を手探りしたけど、すぐに諦めて。また、クーの体をなぜてくれたんだ。しばらくそうしてたけど、だんだん暗くなって来たから、クーをそこに置いて、家に向かって歩き始めたんだ。
クーは捨てられて初めて受けたやさしさが忘れられずに、何とか力を振り絞って、男の子の後をついて行ったんだって。男の子は時々振り返っては、歩みを止め、クーをじっと見てる。そして又歩き出す。
そうこうしているうちに、「創育の森」という立て札のある家の前に着いたんだ。アユは玄関のドアを開ける前にもう一度振り返った。クーはじっとアユの目を見つめてる。そして弱弱しそうな声でないていたんだ。アユはクーに近づき、しゃがみこんで、じっとクーの様子を見てる。もう一度クーの頭をなぜながら何か考えているようだった。
アユはクーを玄関の前に置き、ドアを開けた。そして玄関の中から、しばらくじっとクーを見てるんだ。クーは警戒しながら玄関の中をうかがった、でも、それよりもアユの手のぬくもりの方がクーには嬉しかったのか、クーはアユの足元に歩み寄った。アユは玄関のドアを閉め、クーを抱いて、台所に居るローズの所にいったんだ。
「ついて来た」
「どうしたの、その猫」
「学校の帰りに、捨てられてるのを見つけたんだ」
「それで、つれてきたの」
「つれてきたわけじゃないんだ。ちょっと撫でてやっただけなんだけど、ずっと僕の後をついてきたんだ」
「お腹空いてそうね」といって、ローズは皿に牛乳を注いで、クーの前に差し出した。
クーは最初、ちょっと不安そうにしていたんだけど、食べ物だと分かると牛乳を一生懸命なめたんだって。無くなったら、又、ローズが牛乳を注いでくれて、牛乳でお腹が一杯になると、なんだかお母さんがそばに居るような気がしてきて、いつの間にか眠ってたんだ。
「眠っちゃったわね。アユ、この猫どうするの」
「わかんない」
「家で飼う」
「飼ってもいいの」
「いいわよ」
「じゃ、飼う」
もともと猫好きなローズは、すっかりお母さん気分になって、クーのお世話を始めた。アユも学校から帰ったら真っ先にクーのところにやってくる生活が始まった。アユは心の優しい男の子だった。
そのアユはまだ17歳なんだけど1年前から東京で暮らしてる。16歳の時から親の金銭的援助を一切受けないで、一人で暮らしてるんだ。クーをひらってきたやさしい少年にどんな事情があったのか僕にはあんまりよく分からないんだ。だけど、クロムが言うには「人には、今、この時にしかできない事があるんだって。それは、後から考えてみると、たいした事でもないんだけど。それを、その時にやら無かったら、一生後悔するって思える事があるんだって。」
クロムはアユの決意が本物かどうか確認するため何度も話し合ったらしいんだ。けど、アユの考えは変わらない。そして、アユは自由とそれに伴う金銭的独立を背負い込みながら、去年の5月から東京で暮らしてるってわけなんだ。
僕なんかはご飯さえ食べれればそれで幸せな気がするんだけど、人間て生き物はそれだけでは澄まない生き物のようだね。
「この世には、ご飯以上の何かがある」
それが、人間、特に純粋で若い心の人達を突き動かしていくんだね。
「この世には、ご飯と昼寝以上の何物も無い」
それが、僕の心を突き動かしていく原動力なんだけど。
でも、僕は、時々アユの事を思い出すんだ。家にいて高校に行ってれば何の苦労もしないでいられるのに。それでも自由を求めて飛び出していったアユ。
僕だって、家にいればとっても幸せだけど。外で、思いっきり走り回ってみたいって思う事もあるんだ。だから、何時も、外に出る隙をうかがってる。きっと、自由に走り回ってみたいっていうこんな気持ちがアユの心の中に一杯、一杯たまってきたんだろうな。
なんだか、最近、ちょっとだけ、アユの気持ちが分かるような気がするんだ。だから、僕は時々窓の外を眺めながら東京にいるアユのことを考えてるんだ。元気かな、アユ。

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