僕が見たホームレスにならないための正しい家出

poo.gif朝起きたら、ローズが真っ青な顔をして、叫んでる「アユー、アユー」
なんだ、なんだ、なんだ、ローズの様子がいつもと違うぞ。
そういえば、アユがいない。
テーブルの上にアユの書置きがあった。
「長い間お世話になりました」
その時、僕は初めて、アユが家出をしたんだって分かったんだ。
ローズは泣きながら仕事に出かけてるクロムに電話してる。
クロムもしばらくして帰ってきた。
ローズは又泣き出し、クロムは呆然としてる。
2日間過ぎた。ローズはすっかり元気をなくして、ご飯も食べず、突然泣きだしたりするんだ。なんだか、自分を責めてる様子なんだ。クロムはアユのパソコンに手がかりが無いか調べようとしたけど、アユはハードディスクを持って家出したみたいで何にも分からない。どうやら用意周到な家出のようなんだ。手がかりは何も無かったけど、ローズはアユが小学校の時からインターネットでやりとりしていた岐阜の少年の事を気にしていたんだ。でも、ハードディスクが無いから連絡先も名前も分からない。
3日目の午後、ローズは警察に出かけた。家出人の捜索願を出しにいったんだ。
ローズが家を出てまもなく、電話が鳴った。
クロムが取ると、アユからの電話だった。
「3日間野宿をしてたけど、アパートを借りたいんだ」
「アパートを借りるにはお金が要るけど、お金はどれくらい持ってるんだ」
「10万円くらい」
「それじゃ、お金が足りないだろう」
「バイトする」
「バイトするにも、お前はまだ15歳だ。保証人が要るだろうし、お金が入ってくるのは1ヵ月後だよ。どちらにしろお金が足りないし、準備不足だ。今、母さんが警察署にお前の家出人捜索願いを出しにいってるからちょっと待ってろ」といってクロムは携帯でローズに連絡した。
ローズはすぐに戻ってきて、アユと長い間電話で話した。
翌日、クロムとローズとサキは僕達の餌をでっかいボールにたっぷり入れて、3人で出かけていった。アユはやっぱり岐阜にいるらしい。
1泊して、次の日にアユも一緒に帰ってきた。どんな話し合いがあったのか僕は何にも知らないけど、ローズがとっても嬉しそうな顔をしてたのだけは良く覚えてる。
アユは小学校の時の宿泊学習で使った大きなリュックと、中学校の時の修学旅行で使った手提げバッグを持って家出したらしい。バッグの中には、毛布やロープ、携帯コンロ、缶詰、ナイフ等生き延びるための必需品がいっぱい入ってた。アユは3日間、岐阜の友達の家の近くの公園で暮らしてたらしい。昼間は図書館にいたんだって。アユはとっても疲れた様子だった。きっと、ゆっくり眠れなかったんだろうな。
次の日からしばらく話し合いが続いたんだ。結局アユの気持ちは変わらない。
そこで、クロムはアユの正しい家出計画についてアユと話し合ってたんだ。
「どうしても自由を求めて家を出るって気持ちを変えないなら、それはそれで15歳の少年にしては見上げた気持ちだし、ある意味立派だと思う。どうしてもやりたいなら、最低限の手伝いはする。自由の基礎は経済的自立だから、自分の力で仕事と住居を手に入れなければならない。とりあえず金が要る。でも、金銭的援助はしない。それまで、家においてあげるからすぐにアルバイトを探しなさい。そして、家を借りれるだけのお金がたまったら家を出て行けばいい」
アユは家出した後1週間ほど高校に行った。前期の試験を全部受けたあと、クラスの仲間に自分の夢を語り、退学宣言をしてきたらしい。クラスのみんなから「夢に向かって頑張れ」という寄せ書きまでもらってきた。それ以来、学校には行かず、アユのバイト生活が始まった。
半年以上が過ぎ、資金も十分たまった去年の5月ごろ、クロムは、なかなか腰をあげないアユに家を出て行くように宣言したんだ。
一人ではアパートも借りれない16歳になった少年を連れて、クロムはアユの自由の拠点であるアパートを決めてきた。16歳の少年はアパートを借りるにも親の保障が必要なんだ。アパートを決めるにも親子で面白い会話があったらしいよ。クロムはアユの生活の経済的負担を考えて、少しでも安い部屋を探そうとするんだ。だけど、夢多き16歳の少年は東京23区内、バストイレ付きを断固として譲らない。そのお陰で2人は3日間もアパート探しに奔走したらしいんだ。結果、板橋区に5万円以下で6畳バストイレ付きロフト付きの小奇麗な部屋を見つけることができたんだ。仕事については情報系に進学しただけに、情報系の職種にこだわっていたんだけど、所詮、高校中退の16歳の少年は相手にされるわけが無くって、できる仕事は飲食店かコンビニぐらいしかなかっららしいんだ。
アユが家を出てから2週間ほどして、コンビニにバイトが決まったって連絡が来たんだ。
インターネット喫茶難民とかってニュースをたまに耳にするけど、アユがそうならなくって本当によかったと思う。住むところが無くなった時、きっぱり一般社会と縁を切れば、お金が無くても生きていけるけど、それでも社会にしがみついていこうとすると泥沼にのめりこんでいくんだよねきっと。
こうして、ホームレスにならないアユの正しい家出が終わった。
今年の春にクロムとローズがアユに会いに行ってきたんだ。アユの部屋は足の踏み場も無くて、部屋でくつろぐまでに1時間は大掃除をしなければならなかったってクロムがぼやいてた。アユの部屋にはピカピカのフェンダーのギターが立てかけてあったんだって。
そのギターだけが一人暮らしの淋しい部屋で、少年の瞳と同じようにキラキラ輝いているんだ。頑張れ、アユ。

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