僕と花火とクロムの記憶

poo.gif昨日の夜は心配事で良く眠れないはずだったんだ。ローズのベッドにいても何時クロムが襲って来るかと思うと、突然胸の辺りが苦しくなって来て眠れないはずだったんだ。結構僕もデリケートにできてるからね。ところが、いつの間にかぐっすり眠ってた。時間が来ればお腹が空くし、時間が来れば眠くなる。僕の体は、僕の気持ちにはお構い無しで、いつものように動いてる。
朝起きたら、クロムはまだ寝てた。そこで、ローズに聞いたんだ洗面所にある電動バリカン何に使うのって。そしたら、なんでそんな事聞くのって言うから、正直に話してみたんだ「僕のおののき」について。そしたら、「私にまかせといてって」ローズが言うんだ。「大丈夫、これ、私が隠しとくから。クロムは最近アルツハイマー気味で、短期記憶がすぐ無くなっちゃうから心配ないわよ」ってね。
確かにクロムは忘れん坊なんだ。何時も何か探してる。結局見つからなくて、結局ローズに探してもらってるんだ。この間も、名古屋に仕入れに行った時、車のバッテリーを調べる時に車の屋根に財布を置いたまま忘れちゃって、そのまま車を走らせたんだ。ジュースを買おうと思ってポケットに手を突っ込んだら、財布がない。当たり前だよね、屋根の上に置いたままなんだから。それで、車の中を一生懸命探し回ったらしいんだ。こんな狭い所なんだから、絶対見つかるって。見つかる分けないよね、財布は屋根の上にあるんだよ。
財布がないと、ガソリンも入れれなくて、家に帰ることもできない。それで、しょうがなく、交番に行ったら、財布を拾ってくれた人がいたらしくて、無事に家に帰ることができたんだ。
確かに、クロムは忘れん坊だ。1日眠ったら、バリカンの事はすっかり忘れてるかもしれない。でも、もしもって事もあるからってローズに言ったら、「絶対、大丈夫よ」て返事が返ってきたんだ。「何で、絶対大丈夫よって言い切れるの」って聞いたら、ローズが言うんだ。「今日は夜にクロムの田舎の花火大会に行くのよ。クロムは単純だから綺麗な花火に見とれてバリカンの事なんか絶対覚えてないわよ」ってね。
そうか、花火大会に行くんだったら大丈夫かもしれない。僕は1度花火大会に行ったことがあるんだ。真っ暗な海に浮かんでいる大きな船の上から花火を打ち上げるんだ。シュって音がして、蛇のように長い光の尻尾が空に上がっていって、もうこれ以上上がれないっていうころに、突然、真っ黒の中から、黄色や青や赤の小さな点が飛び出てきて、僕のジャンプよりも早くパッと膨れ上がって、僕に向かって襲いかかってくるんだ。僕は慌てて後ずさりしたんだ。そして、恐る恐る眺めていると。これ以上膨れられないってとこまで膨れたら、光が小さくなって、キラキラしながら落ちていくんだ。ああ助かったとほっとした瞬間、ご飯を食べ過ぎて、お腹が破裂したんじゃないかなって思うほどでっかい音が飛びかかってきて。僕は、必死で、逃げ回ったんだ。花火っていうのは、虎に吼えられるより、馬に蹴られるより、おっかないからね。
何で、あんな、恐ろしいものを見に行くのかわかんないけど、多分、あの光と音の中にいたら、クロムの脳みその中の記憶もみんな逃げ出して、僕の額ほどの記憶も残ってないに違いない。僕は大丈夫だ。
さっき、クロムが花火大会から帰ってきた。帰ってくるなり、僕のお腹をなでて、「ただいま、プー」って言うんっだ。僕は、とりあえずクロムの手をいつもより少しやさしくなめながら様子を伺ってみたんだ。やっぱりクロムの記憶はみんな花火に吹き飛ばされたみたいだ。なんにも覚えてない。今も、ライターがどこへいったって大騒ぎしている。とりあえず僕の名前だけは覚えているから、入院するほどじゃないかもしれない。
夏は、花火大会が沢山あるから、夏の間にクロムの記憶が全部吹き飛ばされてしまうかもしれない。でも、僕の名前まで忘れられたらちょっと悲しいな。

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