生き延びる道を教えたまえ

人間生まれる時は、身一つで出てくるが、50年も年を重ねると、家の中はわけの分からない物、物、物であふれている。
大学を卒業して、職に就いたときは、ジャンスポーツのバックパックに全ての家財道具が納まった。仕事を辞めて、東京に戻ったときも、荷物はバックパック一つに納まった。独身の時はほとんど何ももっていなかった。結婚し、子どもが生まれ、徐々に物が増えて来た。
それでも、何とか収まっていた。ところが、古本屋を始めた途端に全てが狂い始めた。本を収納するために6畳の和室と押入れを本棚に譲った。寝室の半分も譲った。そして、東京に出ている長男の部屋も譲った。本に押し出された物が行き場を失い、家中あちこちにはみ出している。そして、ついに本たちが、我が家のリビングを譲り渡すよう要求を突きつけて来た。すでに実力行使を開始している。
リビングには20個以上のダンボールが天井近くまで詰まれ、テレビの前に積んである本の山がリモコンの電波をさえぎりチャンネルすら変えられないありさまだ。我が家はまもなく本に侵略され、私達は本という恐竜の足元をおろおろしながら歩き回る、哀れな哺乳類と化して行くのだろう。生きるために古本屋を始めたが、震度6強の地震でもあれば、私達は恐竜の下敷きになり、哀れな最後を遂げることになるかもしれない。
古本屋が本に囲まれて圧死するのは、ある意味大往生ともいえるが、娘も道連れになるのは忍びない。我が家で本に侵略されていないのは、唯一、娘の部屋だけだ。せめて、娘だけは何とか生き延びてもらいたい。
生き延びるために古本屋を始めたが、今は、本から生き延びる道を探っている。

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